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サクラソウ(桜草、学名Primula sieboldii)はサクラソウ科の多年草。日本のサクラソウ類の代表で、日本では北海道南部、本州、九州の高原や原野に分布し、朝鮮半島から中国東北部へかけても分布するが、野生の群落をみることはまれになっている。また埼玉県と大阪府の県(府)花に指定されている。江戸時代に育種が進み、数百に及ぶ品種が作られた古典園芸植物でもある。

また、サクラソウ属植物は世界中に約400種あり、花の形などに極端な違いがないことから、「サクラソウ」という語を広義的、総称的に使うことがある。したがって他のサクラソウ属植物も「サクラソウ」と俗称されることがあり注意を要する。園芸店でよく「サクラソウ」として売られている植物の中には西洋サクラソウ(Polyanthus)、プリムラ・マラコイデス(P. malacoides)、プリムラ・オブコニカ(P. obconica)、などがあり、本物の「サクラソウ」が売られることは少ない。


特徴
自生地では林間の湿性地や原野の草間に生え、ときに群生する。地中に根茎があり、春に発芽して5〜6葉を根生し、高さ15〜40cmの花茎を直立させ、5〜10個の花をつける。葉柄は長く、葉は楕円形でしわが多く、縁に浅い切れ込みがあり、葉や茎に白い軟毛が生える。花は直径2〜3cmほどで、花弁が5個に深く裂け、さらに各弁が半分近く裂ける。淡紅色でまれに白花もある。花後、球形の|果を結ぶ。新しい根茎は地際にでき、梅雨明けの頃、葉が枯れて休眠する。夏の暑さと乾燥には弱いが、日本の気候風土に合っており、花は美しく清楚である。


栽培の歴史
江戸時代の中ごろから、荒川の原野に野生するサクラソウから本格的な栽培が始まり、種子まきを繰り返すうちに、白、桃、紅、紫、絞りなどの色変わりや、大小さまざまな花形の変わり品が生まれ、名称が付けられた。やがて江戸時代後半になると品種数も非常に増え、文化元年(1804年)から新花を持ち寄り品評することが始まった。栽培者は旗本や御家人など武士階級が多く、「連(れん)」と呼ばれる2〜3のグループが成立し、新品種の作出を競い合った。文化から天保(1804年〜1844年)にかけてがもっとも盛んな時代であった。熱心な女性の愛好家もいて、寒天を流し固めた重箱に一品種ずつ挿し並べて鑑賞したという文献もある。幕末には各地に広まり、文久2年(1866年)にはサクラソウとしては現存最古の番付が発行されている。現在栽培される約300品種のうち、その半数が江戸時代から株分けで伝えられたもので、その花は多様な花型と繊細な花色が特徴で、他の多くの日本の伝統的な園芸植物と共通している。品種ごとに鉢植えで育て、花時には「花壇」と呼ばれる屋根付きの五段構造の展示台に配色よく飾る。鉢は「孫半土(まごはんど)」という、本来食品容器として作られた瀬戸焼の陶器が使われた。これはサクラソウのデリケートな花色をよく引き立てる。


愛好者層が武士中心であったので、明治維新前後には衰退の危機にも見舞われたが、やがて愛好者も増え、新花の作出も再び盛んになった。この頃に生まれた名花にも今に伝えられているものがある。やがて太平洋戦争により、サクラソウの栽培も下火になったが、戦後次第に復興し、1956年に愛好者のグループである「さくらそう会」が発足、関西にも「浪花さくらそう会」が生まれた。この他全国各地に愛好会ができ、今に続いている。古典園芸植物を代表する存在の一つであるが、それに多い投機的植物のイメージを持たれるのを嫌い「古典草花」と呼ぶこともある。


欧米では植物としてのサクラソウの存在そのものは19世紀から知られ、日本から渡った園芸品種もわずかに栽培されていたが、1990年頃からようやく園芸文化としてのサクラソウが紹介され始めた。1992年にはアメリカで国際プリムラシンポジウムが開催され、世界中からサクラソウ属植物の愛好家、研究者が集まったが、この際に初めて海外に日本のサクラソウ文化が本格的に知られることになった。現在ではアメリカにも愛好会が誕生している。


なお、サクラソウとほとんど同じ時代に、イギリスでもサクラソウ属の植物であるオーリキュラ(Auricula, P. x pubescens)が、カーネーションやチューリップなどと共に育種されて多くの品種が作り出された(これらイギリスの古典的園芸植物をフローリスツ・フラワーと呼ぶ)。 オーリキュラは愛好会や展示方法などにサクラソウとの類似点が多い一方、花の美はサクラソウと正反対の方向に改良されている。このサクラソウとオーリキュラの同時的歴史は、欧米のプリムラ愛好家たちにも興味深い史実として知られている。


自生地の保護
埼玉県さいたま市桜区の「田島ヶ原サクラソウ自生地」は国の特別天然記念物に指定されている貴重な群落である。荒川流域のこの一帯は、江戸時代からサクラソウの名勝地として人々に親しまれてきた。しかし、度重なる治水工事や工場の開発などによって、原野の植生が変わり、サクラソウの群落も範囲を狭められていった。この群落を守るため、1920年に天然記念物に、1950年に特別天然記念物に指定された。この間にも第二次世界大戦による食糧不足の時代には周辺が開墾されたり、その後の高度経済成長期には、荒川河川敷の大規模な開発事業により、指定地の近くまで工場やゴルフ場、公園、道路などがつくられた。その結果、指定地の乾燥化を招き、著しく生育環境が悪化した。

群落衰退の危機に対し、さいたま市を中心に研究者や愛好者などが、灌水設備などの人為的管理に取り組み、生き残った自生地の保護に努めている。4月中旬の花期には約10万人の人々が訪れ、サクラソウの美しい姿を楽しんでいる。


神話・伝承
英語のprimroseはprimerole(最初に咲く花)から転訛したもので、和名も春先に咲く花という意味であり、バラやサクラとは全く関係がない。ギリシャ神話では、青年パラリソスが許婚を失った悲しみにやつれ死に、サクラソウに変身したと語られる。この話から西洋文芸においては悲しみや死のシンボルに使われる。イギリスでは弔花あるいは棺を飾る花であり、春先に咲くことや、薄幸やはかなさとの連想などから花言葉も「青春」あるいは「若者」。また若さにまかせた享楽的生活を比喩的に「サクラソウの道(primrose path)」という。ビクトリア朝期の政治家ディズレーリはこの花を愛したので、彼の命日である4月19日はPrimrose Dayと呼ばれ、市民はこの花を身につけるという。

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