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ムラサキイガイ(紫貽貝 Mytilus galloprovincialis) は、イガイ目・イガイ科に属する二枚貝の一種。地中海原産で、日本のものは大正時代に移入された外来個体群である。ヨーロッパでは古くから食用とされ、日本でも20世紀後半から洋食の食材とされるようになった。食用にする場合は近似種とともにムール貝(仏:moule)と呼ばれるのが一般的である。地方によっては、シュウリ貝、ニタリ貝とも呼ばれる。

世界各地に外来種として分布を広げ、食用として利用される一方で代表的な汚損生物ともなっており、IUCNの「世界の侵略的外来種ワースト100」にも選定されている。カラス貝やムラサキ貝と呼ばれることもあるが、本来のカラスガイ(イシガイ科)やムラサキガイ(シオサザナミガイ科)とは全くの別種。

特徴
殻はやや偏った水滴型で、大型のものでは殻長10cm 以上になるが、普通は数cm 程度。殻はあまり膨らまないで、左右にやや平たい感じがする。外側は光沢がある黒褐色から黒青色。内側は青白色をしており、部分的に弱い真珠光沢を持つ。「ムラサキ」の名があるが、黒褐色の殻皮が剥げた殻はむしろ紺色に近い。尖った部分は殻の前端であるが、殻頂が極端に前方に偏しているため、前端部と殻頂とがほぼ同じ場所にある。反対側の丸く広がった方が後端で、直線的に殻が開く部分が腹側、両殻がつながっている部分が背中である。殻はアサリなどに比べると薄く、やや弾力がある。前端から外側に広がる弧状の弱い成長線があるが、表面は概して滑らかで、殻面にはフジツボ類や管棲ゴカイ類などが着生していることも多い。

腹側の殻の隙間から足糸(そくし)を何本も出して体を海中の岩などに固定するが、若い個体は自分で足糸を切り離し付け直すのを繰り返しながらわずかずつ移動することもある。付着生活者のため、足は細長い指状となっていて一見貧弱であるが、伸縮や屈曲は驚くほど自由である。この足の根元から先端までは溝が走っており、溝の最上奥部にある足糸腺から分泌されたタンパクはこの溝を鋳型として足糸となる。足糸を接着したい対象に足の先端部を密着させたまま足糸形成をすることで、足糸の一端をその対象に接着させる。足糸は非常に強靭で、接着力も強いため、水中接着剤開発のための研究対象となっている。

原産地は地中海沿岸を中心とした地域だが、船舶の底に付着するなどして世界中に分布を広げた。繁殖力が強く、足糸も強靭で容易に剥がすこともできず、ヨーロッパ以外では外来種とはいえ、もはや人力の駆除が不可能なほど各地に定着し、生態系に組み込まれているのが現状である。日本では1920年代に神戸港で初めて発見され、1950年代頃までには全国に分布を広げてしまった。内湾や港など、波の穏やかな潮間帯から浅い海までの人工物や岩礁に多く、外洋に面した岩礁には少ない。大小さまざまな個体が集団で生活するので、ムラサキイガイが集団で付着した海中の岩礁や防波堤、ブイ、船底などは真っ黒にふくらんで見えるほどである。カキなどの養殖筏や発電所の取水設備などにも大量に付着し、被害を与えることがある。

食性は他の多くの二枚貝類と同様に濾過摂食で、海中のデトリタスやプランクトンを食べる。餌は後端の入水管から水と一緒に取り込むが、水管はアサリのように長くはなく、ほとんど殻の外に出ない未発達なものである。糞や食用にされなかったゴミは粘液でまとめられて体外に出されて沈殿するため、他の濾過摂食型貝類と同様に懸濁物の多い水を透明にする働きがある。おもな天敵はクロダイやベラ類、フグ類などの肉食魚である。


分類
類似種が多く変異も大きいため、ムラサキイガイ類の分類は原産地のヨーロッパでも混乱していた時期が長い。日本のムラサキイガイも大正時代に移入が確認されて以来、Mytilus edulis Linnaeus1758(ヨーロッパイガイ)と誤認され続け、そのため文献などでもムラサキイガイの学名を edulis とする時期が長かった。しかし2000年前後以降、タンパクなどの比較などからヨーロッパの種が整理され、同時に日本産の種の研究も進んだ結果、本州を中心に見られるムラサキイガイは 地中海原産のMytilus galloprovincialis Lamarck 1819 であるとされるに至った。また、かつては日本のものは全て外来として扱われてきたが、北海道の一部の個体群は Mytilus trossulus Gould 1860 という在来の種であるとされ、キタノムラサキイガイという和名で区別されるようになった。したがって日本に生息するムラサキイガイ類はムラサキイガイとキタノムラサキイガイの2種ということになる。両種は殻内面の筋痕(貝柱の痕)と外套膜痕の位置関係で区別できるとされるが、北海道の一部ででは両種のハイブリッド(交雑個体)らしいものも見られるという。

以上を整理し、関連種をいくつか追加すると以下のようになる。

ムラサキイガイ Mytilus galloprovincialis Lamarck 1819 :地中海原産。現在では世界中の温帯域に分布する。これらは、バラスト水に含まれる浮遊幼生や船底・船荷などに付着した個体などによって拡がったものと考えられている。日本では北海道南部以南に外来種として分布。別名チレニアイガイ。産卵期は秋〜冬。付着期は春。
キタノムラサキイガイ Mytilus trossulus Gould 1860 :日本では北海道の太平洋岸のみに分布する在来種。他にロシア極東部、北アメリカ西岸、東岸北部(メイン湾が南限)など太平洋、大西洋の、ほぼ北緯45度以北に分布する北方系の種。ムラサキイガイほどには大きくならないことが多い。ノルウェー産のものなどが食用に輸入されることもあるが、量は多くはない。
ヨーロッパイガイ Mytilus edulis Linnaeus1758 :日本には棲息していないとされる。ヨーロッパ(主として地中海以外)、北米などに分布。産卵期は初夏〜夏。付着期は秋。学名の edulis は「食用の」の意で、ヨーロッパでは盛んに食用利用されることによる。日本に移入されたムラサキイガイは、長い間本種であると誤認されていた。
ヨーロッパイガイ亜種 Mytilus edulis chilensis (Hupe 1854) :チリ沿岸全域とアルゼンチン南端部に分布。分布がヨーロッパイガイのそれと大きく隔たっており、しばしば独立種としても扱われる。片殻をはずしたものが食材として日本に輸入されることもある。
これらムラサキイガイ類の区別は必ずしも容易ではなく、生息域が重なる場所ではそれぞれの間でハイブリッドも出現するため、「Mytilus edulis complex」( "ムラサキイガイ複合種" )と表現されることも多い。また、世界には他にも似た種が多く、ある学名で報告されていても十分な検討なしに学名が使われている場合は、本当にその種であるかどうか疑わしい場合もある。

他に日本で「ムール貝」という名で目にする可能性のある種には以下のものなどがある。

イガイ Mytilus coruscus Gould 1861 :日本のほか朝鮮半島、中国などの極東域に分布する在来種。時に 20cm 以上になる大型種。食用。いわゆるムラサキイガイ類でないが、小型個体ではムラサキイガイとの区別が難しい。ムラサキイガイ類に比べ潮通りの良い深い場所に生息するが、生息域は部分的に重なることもある。シュウリ貝、シウリ、シイレなどと呼ばれることもある。
ミドリイガイ Perna viridis (Linnaeus 1758) :形や大きさなどはムラサキイガイによく似ているが殻は鮮やかな緑色。ムラサキイガイ群集に混じっていることもある。フィリピンなど太平洋西部の熱帯原産であるが、1980年代以降日本でも外来種として見られるようになった。東南アジアでは食用貝としてポピュラーな種であるが、見た目の鮮やかさから日本でも食材としても利用されることがある。上記諸種と異なりPrerna 属の種で、この属では成長すると前閉殻筋が退化するなどの特徴がある。

モエギイガイ(パーナ貝)モエギイガイ Perna canaliculus (Gmelin 1791) :ミドリイガイと同じPrerna 属。日本には産しないが、ニュージーランドで養殖されているものが輸入されている。そのほとんどはボイル後冷凍されたもので、殻付き、片殻付き、剥き身などがある。日本の食料品店やレストランなどで見られる"ムール貝"は本種であることも多い。殻はやや緑がかり、茶色の放射状の線が多数ある。別名パーナ貝。
ペルナイガイ Perna perna (Linnaeus 1758) :大きさや形は他種と同様で、殻皮が茶色がかるため、英名を Brown mussel という。本来は大西洋の熱帯〜亜熱帯に広く分布する種。日本には生息しない。北米にも自然分布していなかったが、1990年代にメキシコ湾などで確認されて以後、北米で勢力を拡大しつつある。メキシコ湾では2000年代初頭にミドリイガイの侵入が確認されたことから、逆の経路をたどって本種が日本を含む太平洋域に侵入する可能性もある。

食材

調理されたムラサキイガイ類
ムラサキイガイを使ったパエリア食材としてはムール貝と呼ばれ、主にヨーロッパ各地の料理で利用される。特にフランス料理、イタリア料理、スペイン料理など、南ヨーロッパで多用される。また、ベルギーのムール貝料理が有名。元々日本には生息しない貝でもあり、和食ではあまり利用されていないが、瀬戸内海で収穫されるイガイを瀬戸貝と呼び炊き込みご飯などにすることがある。 旬は、貝が肥える春から夏にかけてである。


中毒
ムラサキイガイは二枚貝のうちでも貝毒を蓄積しやすく、麻痺や下痢などの食中毒を起こすことが多い。日本国内の場合、商品として出荷されるものは検査体制が確立しているため、売られているものを食べる場合は危険性が少ないが、天然のものを捕獲して食用とする場合は注意が必要である。貝毒は4月から5月にかけて発生しやすいと言われる。


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